Delta Date第二楽章 始章

!注意!
これは一応ポケダン小説です。が、超能力やらなんやらが出てきます。
それでもいい方はどうぞ↓↓



妙な夢を見た。
私とニーナしかいない、奇妙な世界の、夢。そこはフィルムでも透かしたように、酷く現実味のない、白んだ世界で。そこに、二人きり。
暑いわけでも、寒いわけでも、嬉しいわけでも、悲しいわけでもなく、ただ、そこにいるだけ。薄ぼんやりとした、世界観。
そこで私はニーナと二人で蹲り、何かを待っていた。
何だか、おかしい。
                             何かが。

目を覚ます。布団はまるで悪い夢を見たかのようにぐっしょりと汗でぬれている。
サクラは溜息をつき、布団を抱えて外に出た。外の空気は汗で濡れてしまった彼女の体を優しく撫でたが、それが余計彼女の精神を脅かしていた。このところ、―――あの事件以来、サクラはよく眠れない日々を送っていた。悪夢とも言えない奇妙な夢は十分、眠ることに対しての恐怖感を彼女に植え付けてしまっていた。そのせいで、<ベリーベーカリー>もまともに開けない状況が続いていた。パンを捏ねている時に、何故か地下室にお客さんたちに催眠術を掛けて押し込んだ記憶がフラッシュバックしたり、催眠術を掛けようとするれば、拒絶反応と共に同じ記憶がフラッシュバックする。あの崖は近付くことを考えただけで、吐き気がする様な状態だ。早く忘れてしまった方がいいことは分かっていたが、パン屋にくる客を見るだけでも、気が滅入ってしまうのだ。扉にはここ二週間ずっとかかりっ放しの「臨時休業」のプレートが揺れている。
ニーナはサクラよりはましではあったものの、同じような状況であるのは変わりなかった。外に出るのを拒絶し、家の中の広い部屋の真ん中に座っていることが多くなってしまっている状況だ。階段さえも怖いといって、上ることはできるが下りられない。
あの事件が無ければ、もしくはあの事件でいっそのこと死んでしまえばよかった、という思いは日々強まるばかりで、二匹の精神は限界に近付いていた。
『物語』を、再発させる程に。

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<死にたがり>は、自分の腕を見て、嘆息する。この間十年ぶりの外出を少々無理したせいか、日光が当たった腕や足、背中などに赤い発疹が出来ている。自分は炎タイプなのに、情けない。しかも、この発疹がなかなか治らない。団員にもからかわれてばかりだ。嫌になる。でも、それは仲間を救ったという証拠でもあるから、複雑な気持ちだ。塗り薬はあるものの、妙な―――何故だかは知らないが、女の子らしい臭いがするものだから、たまったものではない。今度こそリズや、アルトにさえも、からかわれる羽目になるだろう。それは嫌だった。一応自分はメスではあるが、どうも団員からはいつもの態度と口調のせいか、半分ほどオス扱いされている。別に、構わないのだが。
不意に、サクラと、ニーナという二人姉妹のことが思い出された。エムリットによって救出された二人は、今何を思うのだろう?何をしているのだろう?まさか、あの楽観的そうな二人姉妹が、『物語』に、<汚染>されるということはないだろう。そう思う。
埃のたまった部屋に、一筋のくぐもった光が差し込んだ。それに気付いたのか、気付かないのか。皮肉にも<死にたがり>は避けるような格好になって、部屋から立ち去った。

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「あれで良かったのか?せめて、一回ぐらい会いに行ってやったらどうだ。」
「いや・・・。俺が行くことで、あいつのトラウマを刺激でもしたら厄介だ。ついでに、俺はあいつを半殺しにした張本人だぞ?恨まれても仕方ないし、それにあそこには行きたくない。俺の<殺戮の断罪者>の元の『物語』が、近くに眠っているからな。」
目の前で繰り返されるのは、いつまでも平行線を辿る、団長と、アルトの言い合い。リズはその状況に飽きながらも、少し面白がっていた。リズには、アルトが被害妄想か何かをしているのか、ただ単にツンデレかという問題は、昔からの疑問としてあった。しかも、机を挟んで向き合いながらも、チョコレートアイスクリーム片手で、話しているのだ。笑える。というか、笑うしかない。リズにとっては、サクラとニーナの二人娘の問題は、既に終わった悲劇の一つとされている。今更首を突っ込む余裕はない。
「あれは、俺自身のトラウマでもある。いいからもう、首は突っ込まないでくれ。」
アルトがいつになく真剣な表情で、吐き捨てるように言って、立ち上がる。
「ならば仕方ないか。一応様子ぐらいは見てきてほしかったんだがな。」
団長もあきらめた様子で、アイスのカップをごみ箱に放って、立ち上がる。
「でも、あれだぞ?もしあの姉妹が<汚染>されてたら、君はどうする気なんだい?それでもなお見捨てる気ではないだろうな?」
<死にたがり>が、面白がるように、心配するように、立ち去るアルトに投げつけた、言葉。ついにアルトがそれに答えることはなかった。




後書きという名の弁明
DeltaDateの続編です。第一楽章はうごの奴です、ハイ。
何だか長くなりそうです。またきっと8章ぐらいになるんだよ、きっと。
結末は決めているけれど、途中は書きながら決めていく感じですね、ハイ。
というわけで、いつか続きます。