Delta Date第二楽章 第一章

!注意!
これは一応ポケダン小説です。が、超能力やらなんやらが出てきます。
それでもいい方はどうぞ↓↓


―――背後をとられた。
リズが溜息をつき振り返ると、そこにはこの団の最年長チームの二匹が立っている。一匹は口元にどこかこの状況を楽しんでいそうな薄ら笑いを浮かべた、赤い目のクチート、イナ。中性的な顔立ちをしているが、一言でも話せばオスだとばれてしまうのが宝の持ち腐れだと、リズは考えていた。もう一匹は、妙に色素が抜けたかのように白いグレイシア、セン。自分の『物語』に喰われたところを白い包帯を巻いている。今は前足の先と、後ろ足二本、右目の辺りだ。このチーム、二匹とも制御が難しい『物語』なので、専らどうにもならなかった時の為の最終手段となっている。
「君たちはこの前の娘のトコに行かないの?僕は行った方がいいと思うんだけどな。」
「・・・黙れ。」
相変わらずに薄ら笑いを浮かべているイナにそう吐き捨てると、立ち去ろうとする。イナとは相性が最悪だ。一度もイライラしなかったことが無い。
「ごめんね、うちのイナが。君達が行かないんだったら、私達が見に行くから。何か起きてれば、―――私が、<人形使い>として、何とかするから。」
「うちのイナってなんだよ・・・。僕はセンと仲良くなった覚えはないけど?」
ここはアルトも行くのを渋っている。任せた方が安心かもしれない。リズはそう決断し、立ち去り際にセンに囁いた。
「ごめん・・・。頼んだ。」

                         +

――――家から、出られない。
その事実に気がついたのは、つい数十分前だ。
いつも通り眠れない夜を過ごすのに嫌気がさし、外に出ようと思ったのだ。が、玄関の扉は勿論、勝手口、窓、通風孔、煙突でさえも、開かないのだ。まるで、家の中が出れない迷宮になってしまったかのよう。幸い食糧は十分あるのだが、いつ出れるか分からない場所に、十分なんて言葉はないことは自覚していた。幸い、電気、水道、ガスは問題なさそうだったので、いざとなれば家の中で自給自足が出来るだろう。
この状況に心当たりがあるかと聞かれたとしても、よくわからないと答えるしかない。何か引っかかるといえば、二週間前のあの事件が浮かぶが、あの時の異常な世界とは又少し認識が違う気がした。例えるなら、主役の代役を一日前に引き受けた役者のような。あの時アルトは、エムリットというピンク色のポケモンは何と言っていただろう?アルトにはダイタロスが何とかと言われた気がするが、よく覚えていない。けれど、エムリットが言っていたことははっきりと憶えている。

―――君達が巻き込まれたのは、アルセウスの意識の奥底から語られる、『物語』という名の悪夢の一部だ。この幸せ岬に宿って、このダンジョンを不思議のダンジョンに変質させている要因の一つだ。今日昨日あったことは全て忘れた方がいい。出来れば考えるな。それが無理というなら、楽しいことを沢山やった方がいい。さもないと君達は更なる悲劇に巻き込まれる可能性がある。私としても、あいつらとしても、それは絶対に避けたい。もしかしたら今度は死人が出るかもしれない。くれぐれも、気をつけること。また何かおかしなことがあったら君の恋人に連絡しろ。私はそれをどうこうする力はないからな―――

この現象はそれだろうと思う。でも、家からも出られないこの状況では、全く役に立たないアドバイスだった。せめて、アルトが気付いてここへ来てくれないだろうかと思うが、その可能性は今のところ低かった。アルトはもしかしたら自分に対して半殺しにした責任感というものを、抱えているかもしれなかった。その必要は無いにもかかわらず。

                           +

長い間引き籠っていたシグマが、久しぶりに団の建物内をうろつく羽目に陥っていた。というのも妙で、気持ち悪いような、今までも何度も経験してきた悪寒に襲われていたからだ。これに襲われると大抵はどこかで『物語』が発生していると、経験上分かっていた。だが、ここまで酷い悪寒はあまりなく、これのせいで頭も痛いので、報告がてら、薬を取りに行くというような感じなのだ。が。
「あっ、シグマさん出てきましたか。せっかくなので、抹茶アイス作ってみたので食べませんか。」
やはり、ハルに見つかってしまった。今までも報告に行こうとすると大半、廊下で会ってしまう。しかもまたアイスだ。ハルはリーフィアのくせに、冷たいものが好きという呆れた性格をしていた。残念だが、今日は時間が無い。
「悪い、後でな。<死にたがり>がどこにいるか知らないか?」
するとハルはさも残念そうに溜息をついてから、渋々答えた。
「んー。どうせまた司書室でしょう。というか、アイスを忘れないでくださいね。」